R.M Monthly Authentics:初めてでも間違いないランニングシューズ選び。《アシックス ゲルカヤノ32》前編
ランニングにおける、“オーセンティック” な一足。コレさえ選べば、間違いないシューズを追い求める「R.M」の恒例企画の第3弾は、アシックス。日本(神戸)に開発拠点を持つ、“陸の王者”とも言えるグローバルスポーツブランドである。
訪ねたのは東京・丸の内、アシックスジャパンのオフィス。取材に答えてくれるのはランニングシューズのMDを務める藤幡知子さんである。
「《ゲルカヤノ32》は、初心者の方にも安心して履いていただけるシューズです。加えて、長い距離も走ってみたい、フルマラソンに挑戦してみたい方にお薦めです。体力がなくて疲れやすい方、怪我から復帰したばかりの方、体重が重めな方などにも、長く履いていただける一足です」(藤幡さん)

アシックスが提供する“新たなオーセンティック”。
「《ゲルカヤノ32》のオーセンティックさは、スタビリティモデルとしての安定性に加え、ランナーの快適さにも寄り添って開発している点です。従来のスタビリティモデルにはない、アシックスが提供する“新たなオーセンティック”としてお薦めです」(藤幡さん)
《ゲルカヤノ》シリーズは、アシックスの屋台骨を支える根幹のシューズだ。安定性を重視するスタビリティモデルの最高峰とされる《ゲルカヤノ》は、さまざまなレベルのランナーの日常の走りを支え、初めてマラソンに挑むチャレンジャーの足を守ってゴールに導いてきた。しかも、32年もの永きにわたってだ!
《ゲルカヤノ》が“新たなオーセンティック”として大刷新されたのは、2023年のこと。2代遡る《ゲルカヤノ30》のフルモデルチェンジが契機となった。従来のスタビリティモデルにはないシステムを採用し、世界中を驚かせる進化を遂げたのだ。

従来は相容れることのない、2つの機能の融合を目指す。
「従来のスタビリティモデルは、ミッドソールに硬いパーツを組み込むことで、体重移動の際に足に生じるブレ(足が過度に内側に倒れこむオーバープロネーション)を抑える機能を持たせていました。ただし、硬いパーツを組み込むと、履いて走った時にも硬い感触になってしまい、快適性を損なうリスクがありました」(藤幡さん)
《ゲルカヤノ》のフルモデルチェンジに際して目指したのは、安定性と快適性という、それまでは相容れることのない2つの機能の融合。開発チームは、走行時に生じる3次元での足の動きに対応する新たなソールユニットに加え、それまでの安定性の要だった硬いパーツを取り除き、新たなパーツを組み込むことを決断する。
「フルモデルチェンジの《ゲルカヤノ》では、3次元での足の動きに対応する新たなソールユニットのかかと部から中足部に、着地の際のブレを抑制する立体的な形状を持たせました。さらに、安定性を高めるためにミッドソールがせり出す形状を採用し、ソールの底の面積を広げました。そして新たに、あえて軟らかなパーツを中足部のアーチ部分に配しました」(藤幡さん)

“柔よく剛を制す”4Dガイダンスシステム。
中足部の足の窪み(アーチ)部分に軟らかなパーツ……。今まで硬いパーツで着地時のブレの発生を抑制していたのとは、180度異なる発想での解決となったのだ。いわば“柔よく剛を制す”。しかも、このパーツは、長距離を走り続けることで、その性能をいかんなく発揮するという。
「私たちのランニングフォームに関する研究では長時間・長距離を走ると疲労によりフォームが崩れ前傾姿勢になる傾向にあり、しかも着地の際に足裏が地面にフラットに接する傾向が高まることが分かりました。そのため、負担が増す中足部の安定性を担保する必要がありました」(藤幡さん)
こうして、ランニング時の足の動きを3次元的に解析するバイオメカニクス(生体力学)に加え、長時間での変化という時間軸まで考慮した「4Dガイダンスシステム」が《ゲルカヤノ》に搭載されることになった。
「4Dガイダンスシステムは、スムーズに倒れこみから、前足部のバウンスに繋げることで安定性を担保します。次の一歩をスムーズに踏み出せるように、中足部のパーツをあえて軟らかな素材にしたことで、走る心地よさが得られました」(藤幡さん)

アシックスの快進撃は、丁寧な販売戦略からも……。
実は筆者も、2022年の《ゲルカヤノ》のフルモデルに大きな衝撃を受けた一人だ。もちろんその衝撃は、グローバルで展開するアシックスの各国の担当者からも寄せられたという。そのためアシックスは、GEL-KAYANOの新機能の特長や魅力を店頭表現や販売スタッフの丁寧な説明を通じて的確に伝えられる販売店に限定して展開する流通戦略を立てる。
「発売前に販売スタッフの皆さんに商品の理解を十分深めて頂き、お客様にお勧めして頂くための商品勉強会を実施しています。販売店の皆さんのおかげで、売上は好調です」
《ゲルカヤノ32》の31からのアップデートは、マイナーチェンジながらも、随所に施されている。まずは、前足部のミッドソールの厚みの2mm増。前足部のクッション性が向上することで、蹴り出しの際の心地よさがアップしたという。

ジェンダーレスのカラーリングも、人気の理由!
「前足部のミッドソールは2㎜厚くなっていますが、わずかですが軽量化にも成功しています。重量は、27㎝片足で約300gです。アウターソールのラバーや、ミッドソールの形状を見直すことで、機能や耐久性を損なわないよう最適化を図っています」(藤幡さん)
足の甲に当たるシュータンも見直されたという。シュータンは、甲を包むためフィッティングに直結するパーツ。甲に当たる個所は厚く、しかも通気性を確保する薄い部分を設けて、全体として薄く軽量に仕上げている。
「今回のキーカラーは、ホワイトが基調で、何にでも合わせやすいカラーリングです。ランニングシューズに採用されるカラーのトレンドは、ジェンダーレスな方向に移行しつつあります。ラン以外でも履けるのも人気の理由です」(藤幡さん)



もうひとつ藤幡さんに聞いておきたかったのが、シューズのかかとと前足部の高低差、いわゆるドロップの変更について。ドロップがあることで、かかと高になり、推進力を得やすくなるのだが、長らく変えなかった10㎜から8㎜に変更になったのだ。
「《ゲルカヤノ32》に限らず、弊社のビギナーが一般のランナー層に提供するシューズのドロップは、現在8㎜に統一しています。その理由は、ミッドソールのフォーム材の進化です。8㎜で適切なバウンスが得られるので、推進力をドロップに頼る必要がなくなりました」(藤幡さん)
シューズのスペックではないが、《ゲルカヤノ32》の発売は、それまでの8月から6月に変更になっている。そんなに早い時期に新モデルを発表するブランドは、あまりないと思うが、その理由も藤幡さんに聞いておきたかったことである。
「春でレースシーズンが終わり、販売店ではセールも始まるため、新しい商品が店頭になくなっている時期でもあります。しかし、ランナーの皆さんにとっては、次のシーズンに向けてトレーニングの計画をスタートさせるタイミングです。6月に新製品を投入することは、ランナーのニーズと販売店の商品を充実させる両方の意味で、理に適っていると判断しました」(藤幡さん)

《ゲルカヤノ32》のインプレは、次回のお楽しみ!
藤幡さんの話を聞くほどに、《ゲルカヤノ32》で走ってみたくなってきた。何せ、フルモデルチェンジから2代後のタイミングは、クルマ市場で言えば、機能がしっくりする、まさに“買いごろ”なタイミングなのだ。
というコトで、川内優輝選手も着用という最新のランニングウェアに着替えて、試履きへGO。本連載の目的は、“ちょっと走ってみようかなぁ”というランニングに合う、オーセンティックな1足探し。インプレで想定するシーンは、次の4つだ。
- まずは、足入れ、
- ビギナーを含めた「運動不足の解消」を目指す低速での走行、
- お腹周りの体脂肪を燃やすための長時間走に合った「痩せラン」ペース、
- そして気分爽快のためのダッシュの「スカッと走」。
いずれも競技未満の“フツー”のランニングシーン。では、それぞれの速度帯での《ゲルカヤノ32》の実力は……というところで残念ながら前編は終了。後編に続く!
撮影/小川朋央


