110年を超えるブルックスの歴史とテクノロジー
定番モデル「ゴースト」の存在は知っていても、ブルックスについては詳しく知らないというランナーの方は案外多いのではないでしょうか。100年以上の歴史があり、ランニング大国・アメリカで高い人気を誇るブルックス。今回はその歴史に触れながら、アメリカでの人気の秘密を探っていきたいと思います。
ブルックスが誕生したのは1914年。今から110年以上も前のことになります。バスシューズ(水泳や海水浴用の靴)やバレエシューズを製造する靴工場から始まったそうです(ちなみに当時のブランド名のスペルはBRUXSHU)。その後、1921年に野球用スパイク、1930年にアメリカンフットボール用スパイクを開発。アメリカを代表するスポーツシューズブランドへと成長していきます。

EVA素材を世界で初めてランニングシューズに採用!
1970年代に入るとアメリカはジョギングブームに。そこでブルックスは大きな存在感を示すことになります。1975年に、EVA(エチレンビニールアセテート)を世界で初めてランニングシューズのミッドソールに採用。EVAは軽量でクッション性が高く、当時一般的だったラバースポンジよりも反発性に優れており、採用モデルの「ヴァンテージ」は、多くのランナーから支持されることになります。今でも多くのランニングシューズに使われているEVAですが、その原点はブルックスにあったのです。
1980年には、世界で初めてゴアテックスを搭載したランニングシューズ「ハガー GT」をリリース。優れた踵のホールド力と防水性能を備えたシューズとして話題になりました。
「現在は、ブルーラインと名付けられた次世代開発チームが、ハイペリオンエリート シリーズを代表とするトップアスリート向けのモデルなどでチャレンジングな商品開発を行っていますが、ランナーのためにより良い素材や構造を探求するDNAは古くから受け継がれています」と、ブルックスの日本における総合販売代理店を務めるアキレス株式会社の栗岩克明さんは話します。


2001年よりランニング専門ブランドへ
ブルックスの大きな転換点となったのが2001年。それまでは総合スポーツシューズでしたが、最も得意とするランニングカテゴリーに事業を集約。ランニングシューズ専門ブランドとして新しいスタートを切りました。
2008年には、ブランドを代表する定番モデルの1つとなっている「ゴースト」の初代モデルが登場します。
「ゴーストは登場以来、数々の業界賞を受賞してきました。クセがない履き心地が日本の多くのランナーに評価されたこと、また手の出しやすい価格帯であることから日本市場で最も人気を獲得しているシューズになっています」(栗岩さん)
「ゴースト」シリーズは、今年7月に最新作「ゴースト17」が登場。8月には「ゴースト」の厚底バージョンとして人気を獲得している「ゴーストマックス」の最新バージョン「ゴーストマックス 3」が発売されました。
「ゴースト 17」と「ゴーストマックス 3」のミッドソールには、液化窒素ガスを混合して臨界発泡させたDNA LOFT v3(ディーエヌエー ロフト v3)という素材が使われているのですが、クッション性と反発性が得られながら柔らか過ぎず、普段のジョギングに使用するのに非常に適しているバランスだなと感じます。


アメリカのランニング専門店シェアNo.1ブランドに
そのDNA LOFT v3の礎となった独自のクッション素材、BROOKS DNAが生まれたのは2010年のこと。その搭載モデルがヒットしたこともあり、2011年にブルックスはアメリカのランニング専門店シェアNo.1ブランドとなります。
「アメリカのランニング専門店シェアNo.1は、現在でも維持しています。アメリカには多くのランニング専門店があり、専門的な知識を持つスタッフが各々のランナーに適したシューズ選びをサポートしてくれます。そこでのシェアが高いのは、ブルックスのシューズが多くの市民ランナーにフィットする機能を備えている証だと思います」(栗岩さん)
そんなアメリカで多くのランナーから支持されているのが、「アドレナリン GTS」シリーズです。初代モデルが1999年に誕生した「アドレナリン GTS」は、今までに数千万人のランナーやウォーカーを支えてきたブランドを代表するスタビリティモデル(モデル名にあるGTSは“Go To Support”の略)。シリーズ最新作「アドレナリン GTS 25」は、ブルックス独自のサポート機能、GuideRails(ガイドレール)テクノロジーを搭載。オーバープロネーション(着地時に過度に踵が内側に倒れ込む挙動)を抑制しながら、着地から蹴り出しまでの自然で負担の少ない、理想的な動きをサポートしてくれます。
初代モデルの「アドレナリン GTS 1」は、“安定感がありつつも、柔軟で反応の良いシューズが欲しい”というランニング専門店からのリクエストを受けて開発されたもの。着地から蹴り出しまでの安定した足運びを促し、踵から爪先までのスムーズな重心移動をサポートするという設計思想は変わらずに受け継がれています。

昨今は、柔らかくバウンス感が得られるハイクッションモデルがトレンドになっていますが(走っていて楽しい点はとても魅力的で良いことではありますが)、スタビリティモデルはケガの予防に役立ってくれるものなので(筆者自身、足首が柔らかいせいか柔らか過ぎるシューズを長く履くと膝に違和感が出ることがあり、日々のジョグにはスタビリティ系のモデルを好んで履いています)、ぜひ試してみてもらえたらと思います。
ブルックスの最先端を感じられるシューズも人気
世界で初めてEVAを採用したランニングシューズをリリースしたブルックスですが、もちろん現在も新しいチャレンジを続けています。
2024年10月に先行発売され、今年2月に本格ローンチされた「グリセリン マックス」には、DNA Tuned(ディーエヌエーチューン)というクッションフォーム材が採用されています。
DNA Tunedは2段階の射出成形と超臨界発泡技術によって誕生した素材。単一の素材でありながら外側と内側で気泡のサイズが異なっています。外側は気泡が大きくソフトでクッション性が高いという特長があり、内側は気泡が小さく反発性に優れています。
「1つの素材に2つの個性を持たせることに成功したのが、DNA Tunedの特徴です。個性の異なる2つの素材を組み合わせると接着剤などを使用することになりますが、それがライド感のスムーズさや耐久性を損なう原因になる場合もあります。DNA Tunedは、部位によって異なる機能を発揮しながら、ナチュラルでスムーズなライド感が味わえる素材というわけです」(栗岩さん)
「グリセリン マックス」のミッドソール厚は前足部が39mm、踵部が45mm。これは、ブルックス史上最厚です。安定性を確保するためにソール底面の面積が広くとられています。日本でも人気モデルの1つとなっている「グリセリン マックス」ですが、中国や韓国では他モデルを突き放して圧倒的な支持を得ているそう。快適なライド感はもちろん、タウンユースしたくなるルックスがヒットの要因となっているようです。

市民ランナーのみならず、もちろんトップアスリートもブルックスのランニングシューズを履いています。今年9月、東京で開催された世界陸上で、女子マラソンのアメリカ代表に選出されたスザンナ・サリバン選手、ジェシカ・マクレイン選手、エリカ・ケンプ選手はブルックスのシューズを着用。サリバン選手は4位、マクレイン選手は8位と入賞を果たしています。
エリートランナー向けに開発された、現在のトップレーシングモデルが「ハイペリオンエリート 5」。2012年のロンドン五輪、2016年のリオデジャネイロ五輪の女子マラソンにアメリカ代表として出場したデジレ・リンデン氏と共同開発した、カーボンプレート搭載の厚底モデルです。
ミッドソールに採用されているのは、DNA GOLD(ディーエヌエー ゴールド)という素材。100%のPEBA(ポリエーテルブロックアミド)に、窒素を高圧注入しているとのこと。PEBAは、近年レーシングシューズに採用されるようになった素材(現在はPEBA時代と言えるかもしれません)。軽量で反発力が高く、柔軟性にも優れています。

アメリカでは高い人気を誇り、クオリティの高いシューズがラインナップされているブルックス。今回紹介した中に気になるモデルがあったら、ぜひ一度試してみてください。


