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ラインナップが豊富なアシックスのシューズ。どう選ぶ?

神津 文人

市民ランナーから、トップアスリートまで、多くの日本人ランナーから支持されているアシックスのランニングシューズ。9月に開催された世界陸上で、小林香菜選手が「メタスピードエッジトウキョウ」を履いて、7位入賞を果たしたのも記憶に新しいところ。スポーツショップの棚を見るとよくわかりますが、アシックスのランニングシューズはラインナップが豊富。誰もが脚力やフォーム、使用シーンにフィットする自分にあう1足を見つけられるのが魅力です。一方、「モデル数が多くてどれを選べばいいかよくわからない」という人もいるかもしれません。

そこで、今回はトップレーシングである「メタスピード」シリーズを除いたアシックスのランニングシューズについて、採用されているテクノロジーとともに詳しく紹介していきたいと思います。アシックスジャパン株式会社 カテゴリー統括部 パフォーマンスランニングフットウエア&アパレル・エクィップメント部 FWプランニング・MDチームの藤幡知子さん、山﨑光さん、萩原風人さんの3名にお話を聞いてきました。

大きく3つに分けられたカテゴリーが重なり合っている

レーシングシューズを除くアシックスのランニングシューズは、大きくスタビリティサイロ、クッションサイロ、バウンスサイロの3タイプに分けられます。スタビリティ系の代表は「ゲルカヤノ」、クッション系の代表は「ゲルニンバス」、バウンス系の代表は「ノヴァブラスト」です。

「スタビリティサイロとクッションサイロの境目というのは以前ほどはっきりしていなくて、重なりあっているイメージですね。快適性とクッション性という部分は共通していて、より柔らかくて気持ちよく走れるのがクッションサイロのシューズ、快適性がありながら走っているときに安定性を発揮するのがスタビリティサイロのシューズですね。さらにそこにバウンスサイロが加わって、3つの柱が独立して並んでいるというよりは3つの円が重なり合っているイメージになります」(藤幡さん)

スタビリティ系の2大モデル「ゲルカヤノ」「GT-2000」

快適性と安定性を備えたスタビリティモデル。「ゲルカヤノ32」と「GT-2000 14」が該当します。「ゲルカヤノ」は、初代モデルが1993年に登場したブランドを代表するロングセラー。安定性と快適性の両立の肝となっているのが、「ゲルカヤノ30」から継続して採用されている「4D GUIDANCE SYSTEM(4D ガイダンスシステム)」です。走行距離とともに変化するランナーの動きを研究して開発した機能構造で、ミッドソールを内側の踵部から中足部にかけて広がりを持たせた立体形状、アーチ部に横に張り出すように高反発でソフトなフォームパーツ、踵部には適切な傾斜などが特徴です。

一方の「GT-2000 14」に採用されているのは「3D GUIDANCE SYSTEM」。踵部外側に適切な傾斜をつけてヒールコンタクトをスムーズにし、ミッドソールを内側の踵部から中足部にかけて広がりを持たせ走行時の過度な倒れ込みを抑制します。

「ゲルカヤノ32はサポート機能がマックスに搭載されていて、GT-2000 14はそれが少しマイルドになっています。プロネーションが強い方ならカヤノの方が安心ですし、サポートはほどほどで良いという人にはGT-2000が向いているというイメージですね」(藤幡さん)

多くのランナーをフルマラソン完走に導いてきたロングセラー「ゲルカヤノ32」
「ゲルカヤノ32」はアーチ部に高反発でソフトなフォームパーツを搭載
「GT-2000 14」は安定性と軽快さが融合したデイリートレーナー

「ゲルニンバス」「ゲルキュムラス」がハイクッション系の看板モデル

「ゲルニンバス27」と「ゲルキュムラス27」は、高いクッション性が特長となっているモデルです。ラテン語で“雲”を意味するニンバスをモデル名に冠した「ゲルニンバス」は、初代モデルが1999年に登場。特にクッションシューズの市場が大きいヨーロッパやアメリカでは高い人気を誇っています。日本でもフルモデルチェンジした「ゲルニンバス25」以降は、ランナーに支持されているのはもちろん、タウンユースしている人も多く見るようになりました。

「より高いクッション性を求めるランナーにはゲルニンバス27、クッション性とともに軽さを求めるランナーにはゲルキュムラス27が適しています。クッション性、フカフカ感はゲルニンバス27が上ですが、ゲルキュムラス27は適度な接地感が得られますし、トレッドミルも走りやすいシューズです」(藤幡さん)

「ゲルキュムラス 27」の大きな特長のひとつが、アウトソール。一般的なランニングシューズでは、耐久性、耐摩耗性に優れたラバーをアウトソールの素材に採用することが多いですが、「ゲルキュムラス 27」に採用されているのは、EVAとラバーを混合したフルイドライドアウターソールというラバーフォーム。EVAとラバーの長所を併せ持った素材で、ソフトでスムーズな接地感と高い耐久性を両立しています。

「ゲルニンバス27」は雲の上を走っているかのようなソフトなライド感が魅力
「ゲルキュムラス27」はクセがなくさまざまなシーンで活用できるクッションモデル

大人気の「ブラスト」シリーズはラインナップが拡大

バウンス感と高い反発性が魅力で、跳ねるような推進力が得られる「ブラスト」シリーズ。多くのアスリートがジョグで活用している「ノヴァブラスト」「スーパーブラスト」は、市民ランナーにも高い人気を誇っています。さらに、この秋に「メガブラスト」と「ソニックブラスト」の2モデルがラインナップに加わりました。

「ノヴァブラストはブラストシリーズのアイコン的存在で、多くのランナーから支持されています。より反発性に優れているのがスーパーブラストで、そのさらに上、新しいフォーム材を採用してさらなる反発性を提供しているのがメガブラストです。メガブラストは実験的な位置付けの存在でもあります」(萩原さん)

「メガブラスト」のミッドソールに採用されているのは、FF TURBO SQUARED(エフエフターボスクエア)という名前の新素材。FF TURBOと比較すると、反発性が約32%も高い素材。着地と同時に変形、圧縮し、素早く元の形状に戻ることで、跳ね返るような感覚が得られます。

多くのアスリートがジョグシューズとして活用している「ノヴァブラスト5」
反発性があって軽量。安定感も得られる「スーパーブラスト2」
新素材の採用でさらなるバウンス感が得られる「メガブラスト」

プレート入りのシューズも大充実

「ソニックブラスト」は、ミッドソールにFF BLAST MAX(エフエフブラストマックス)とFF TURBO SQUAREDを採用。そして、ASTROPLATE(アストロプレート)と名付けられた樹脂プレートを搭載しています。「ブラスト」シリーズ内の一足ではありますが、サイロとしてはスピードサイロ。つまり、競技者用のシューズに該当し、「マジックスピード」や「S4」の仲間ということになるそうです。

「S4はかなり独特なプロダクトで、サブ4(フルマラソン4時間切り)達成を目指すランナーのためのレース用シューズとして開発されました。マジックスピードもS4と同じくカーボンプレートを搭載したモデルですが、こちらは初めてカーボンプレート搭載シューズに挑戦するランナー、それからレースで自己記録更新を目指すランナーのためのシューズです。S4よりも活用して頂けるランナーのレンジが広いイメージですね。そして、ソニックブラストですが、こちらはカーボンよりも柔らかい樹脂プレートを搭載したモデルになります。レースでメタスピードシリーズを履くようなランナーの、スピードトレーニング用という位置付けです」(山﨑さん)

カーボンプレート搭載シューズよりも足への負担を軽減しながら、レース用シューズと同じようなプレートの感覚が得られるのが「ソニックブラスト」ということです。また、中・上級者向けのスピードトレーニング用には、プレートが搭載されていない「エボライドスピード3」というモデルも展開されています。

サブ4を目指すランナー用に特化された「S4+ YOGIRI」
11月に発表されたばかりの「マジックスピード5」
「ソニックブラスト」はカーボンよりもやわらかい樹脂プレートを搭載

目的に合わせたシューズを選んで快適なランニングライフを!

ケガなく、継続的に快適なランニングライフを送るには、自分のランニングスタイルにフィットしたシューズを選ぶことが大切です(もちろんサイズ選びも重要なので、ショップで専門のスタッフに見てもらいましょう)。

「エントリーランナーの方であれば、まずフルマラソンやハーフマラソンなどのレースに出場することを想定しているのか、健康維持やストレス発散を目的に自分のペースでランニングを楽しみたいのかで、選ぶべきシューズが変わります。ビギナーの方がレースを完走するためには、やはり体を守る機能が必要になるので、スタビリティサイロのシューズがおすすめになります。長い距離を走るわけではなく、短い距離を気持ちよく楽しく走りたいというビギナーの方にはクッションサイロ、バウンスサイロのシューズがおすすめです。どちらかというのは好みにもよりますが、たとえばゲルニンバス27とノヴァブラスト5を比較すると、後者の方がよりミッドソールフォーム材の反発が強いので、走力、脚力を必要とするかなと思います」(藤幡さん)

「ブラスト シリーズは、海外でも非常に人気が高く、ノヴァブラスト5はさまざまなレベルのランナーの方に支持されています。また、スーパーブラスト2は、タウンユースで活用されている方も多いモデルです」(萩原さん)

スタビリティ系の「ゲルカヤノ32」「GT-2000 14」、クッション系の「ゲルニンバス27」「ゲルキュムラス27」、そしてバウンス系の「ノヴァブラスト5」「スーパーブラスト2」「メガブラスト」は足型(ラスト)が統一されているのもポイント(アッパーの素材や構造でフィット感は少々異なりますが)。それゆえ、ランニングスタイル、ライド感の好みで選ぶことができるのです。

この記事を書いた人
神津 文人
神津 文人
フリーライター
2013年にフリーライターとなって以来、健康とフィットネス、シューズのテクノロジーを中心に「Tarzan」「GIZMODO」「FashionTechNews」「Runners Pulse」などで執筆。『RUN.MEDIA』では、ブランドヒストリーやシューズの開発ヒストリー記事を担当。
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