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日本発のパフォーマンスランニングブランド、HYBEX(ハイベックス)を知っていますか?

神津 文人

ハイベックス(HYBEX)は、日本発のパフォーマンスランニングブランド。テクノロジーとデザインを融合させることでスポーツ体験を再定義し、人間が身体を動かすという根源的な活動を増やすことをミッションとしています。今年2月、ブランド初となるランニングシューズ、「HX LENS(レンズ)」をリリース。独自のメタマテリアル構造(人工的に設計された特殊な構造体)を3Dプリント技術で実現した、特許取得済みのソールユニット、Helix(ヘリックス)が最大の特徴です。従来のシューズとは異なる新しい走行体験が得られる「レンズ」は、筆者のお気に入りの一足でもあります。ハイベックスはどんなブランドなのか、代表を務める長谷川直輝さんに話を聞いてきました。

HX LENS(レンズ)

3Dプリント技術を駆使して提供する新しいランニング体験

「3Dプリントで作るメタマテリアル構造を採用して、これまでにない新しいランニング体験を提供したいという想い、アイディアは3年以上前からありました。シューズのミッドソールは、金型にEVA(エチレン ビニル アセテート)などを流して固める、いわゆる射出成形(インジェクション成形)という製造方法が長く続いていて、フォーム材の硬い柔らかいといった違いはあるものの履き心地にメーカーごとの明確な大きな差というものがないと、一市民ランナーとして感じていました。最近は厚底シューズが流行っていますが、ランナーが求めているのは“厚底”ではなく“クッション性”なので、新しい形のクッション性を提供するといったこともメタマテリアル構造を使ってできるのではないかと。ただ、自分自身が3Dプリントに関するエンジニアリングやメタマテリアルの知識が豊富だったというわけではなかったので、知見のある方を探して声をかけて、アイディアを共有して、まずはサンプルを作ってみようとなったのが2年半くらい前のことです」

今から3年前、広く流通し多くのランナーが愛用するようなモデルはなかったものの、3Dプリント技術によるミッドソールを採用したシューズ自体は既に存在していました。それらとはどのように差を生み出せると感じていたのでしょうか。

「ランナーも別に3Dプリントで作ったシューズを求めているわけではないと思うんです。僕らが3Dプリントを採用した理由としては、いかにブレーキをかけずにランニングエコノミーを高められるかという課題の解決策として適していると考えているからで、デザインを重視して使っているわけでも、最新技術だからという理由で使っているわけでもないんです。なので、3Dプリントに固執しているわけでもなく、今後より良いものが出てくるのであれば、それを取り入れていきたいと考えています。それから、当時はさまざまなブランドが3Dプリントという新しい技術を使ってどんなことができるかというのを、いろいろと試していたと思うのですが、明確にパフォーマンスに直結するようなシューズというのがなかったと思っていて、そこを追求していけば勝負できるだろうと感じていました」

「前に回転しながら潰れる」独自構造で特許を取得

ハイベックスの「レンズ」には、HeliX(ヘリックス)ソールと名付けられた特許取得済みのソールが採用されています。ヘリックス ソールの特徴は、その構造が前に回転しながら潰れる点。着地時の衝撃を吸収しながら、ブレーキ力を低減し、そのエネルギーを回転運動によって前方への推進力へと変換します。これにより、従来のフォーム素材をミッドソールに使ったシューズでは難しかった高い衝撃吸収性と滑らかな体重移動の両立を実現できたそうです。

「従来のフォーム材は柔らかくクッション性は高いのですが、下に沈むんです。ランニングはシンプルに前に進んでいくスポーツなので、着地の度に下に沈んでブレーキがかかるのはもったいないですよね。そのブレーキを減らして着地時の衝撃のエネルギーを前方向に変換しながら走ることができたら、ランニングエコノミーを改善できますし、メタマテリアル構造であればそれができるであろうと考えました。フォーム材ではできない、エネルギーのベクトルの変換を目指し、新しい構造の開発を進めていきました」

開発チームには、建築構造や解析、3Dプリントを専門としたメンバーが集結。何十個という構造のパターンを作り、150足以上のプロトタイプを制作したそうです。そして誕生したのが、ヘリックス ソールなのです。

ポイントは、下向きの踏み込みの力を前方へのエネルギーへと変換しブレーキを抑制する点と、最初は柔らかく荷重が増すほど(密度が増し)硬くなるという2面性を持っている点。素材の性質ではなく、立体的な格子状の構造によって、これらの性質を実現しています。

特許取得済みのHeliX(ヘリックス) ソール

「多くのサンプルをテストした結果、高い衝撃吸収性と滑らかな体重移動の両立という意味では、現時点でヘリックスが最適だと考えています。ただ、ヘリックスだけだとスムーズなランニング体験に不足している部分があると感じたので、下層に超臨界発泡のEVAを敷くことにしました。その結果、蹴り出し時に適度な反発が得られ、ランナーはブレーキを感じることなく、流れるように前進していく感覚を味わうことができます」

ハイベックスは、2025年11月30日から12月2日にドイツのミュンヘンで開催された世界最大のスポーツ見本市「ISPO Munich 2025」に出展。「ISPO Brandnew Award」において、既存のランニングシューズ市場における「テンプレート化したスタイル」を打破する新しいアプローチと、独自の3Dプリント技術が高く評価され、アジア企業として唯一のファイナリストに選出されました。

2月に開催されたポップアップイベントの様子

既存のシューズとは異なる新しいライド感

3Dプリントによる構造体のみでミッドソールを形成すれば金型は不要になるものの、「レンズ」は下層にEVAを採用しているため、必然的にサイズごとに金型が必要になり、その分、製造コストは上がります。また、射出成形によるフォーム材は量産時の誤差がほとんどないものの、3Dプリントはミリ単位のズレが出ることもあるそう。製造方法の全く異なるものを組み合わせることも、なかなかの困難を伴うことだったと言います。

「新しいランニング体験を作るために、新しいランニングシューズの製造方法を作っているというのはあるかもしれません。既存の製造方法でやっても同じものしか作れませんし、大手のスポーツブランドは、それこそ何十年にも渡って研究開発、投資をしてきているわけなので、資金力があるわけでもない僕らが従来のやり方でやっても勝負にならないと思います」

実際に「レンズ」で走ってみると、フォーム材をミッドソールに採用しているランニングシューズとは全く違う新しいライド感が楽しめます。3Dプリント技術を用いたミッドソールに対して「硬い」「重い」という印象を持っている方がいるかもしれませんが、想像以上に柔らかく、重さが気になることもありません。シューズ重量は約245g(26cm)。スーパートレーナーと呼ばれるカテゴリーに属する他のシューズと変わらない重さです。着地時に際立つのはクッション性の高さ。そして、そこからの前方への重心移動をヘリックス ソールが促し、サポートしてくれるようなユニークな感覚が得られます(自分の足が大玉送りの球になった気分になりました)。ラスト(足型)は、日本人の標準に合うものを選択しているとのことで、窮屈さはなく、とても快適でした。

アウトソールには、一般的なラバーよりも耐摩耗性・耐久性に優れているというCPU素材を採用。あらゆる路面に対して安定したグリップ力を発揮するだけでなく、二層構造のミッドソールと連動し、蹴り出し局面での推進効率を高めてくれるそうです。

耐久性が気になるという方もいるでしょう。ラボでの屈曲テストでは、屈曲角度50度、毎分70〜100回のペースで合計125,000回の連続屈曲負荷を与えても3Dプリント構造体に構造的な破綻は見られなかったとのこと。また、実走テストでは累計500km以上の走行後も構造体のヘタリや破損、目立った変形はなかったそうです。さらに、3Dプリント構造体の側面は、万が一一部が欠けた場合でも走行性能に大きな影響が出ないように設計されているとのこと。

もちろん、これがハイベックスのゴールというわけではありません。秋には新作の発表を予定しているそうです。

「2031年までに最低でも5品番というのを目標にしています。ファーストモデルのレンズはスーパートレーナーですが、テンポアップ用やLSD用も検討していますし、レーシングモデルも作りたいと思っています。現在の主流であるカーボンプレートとスーパーフォームの組み合わせとは違う、レーシングシューズの形を生み出したいですね」

日本発の新ブランドの未来に期待しましょう!

HYBEX Instagram
https://www.instagram.com/hybex.jp/

この記事を書いた人
神津 文人
神津 文人
フリーライター
2013年にフリーライターとなって以来、健康とフィットネス、シューズのテクノロジーを中心に「Tarzan」「GIZMODO」「FashionTechNews」「Runners Pulse」などで執筆。『RUN.MEDIA』では、ブランドヒストリーやシューズの開発ヒストリー記事を担当。
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